消費税を原則課税で計算している事業者のインボイスへの対応を解説します。
目次
適格請求書発行事業者の登録
消費税を納めている課税事業者は迷わず適格請求書発行事業者の登録をしましょう。
原則課税でも簡易課税でも登録しない理由はありません。
*ただし今後免税事業者になりそうという方は後述の2年(超)縛りに注意が必要です。
登録には「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出します。
申請をすれば登録番号がもらえ、自分自身が発行する請求書や領収書などに番号を入れることができます。
インボイス制度が始まるとこの登録番号が重要になってきます。
日々の経理、会計処理
売上について
売上処理についてはあまり面倒なことはありません。
自社が発行する請求書、領収書、納品書、レシート等について適格請求書の要件を満たせば大丈夫です。
これまでと決定的に違うのは登録番号を入れることです。
「登録番号 T123・・・・・」などと。
あと必ず入れるのが税率ごとに区分して合計した額、消費税率、消費税額を記載します。
一度請求書などのフォーマットを作ってしまえば終わりですね。
領収書などに会社情報の印鑑を押す場合には登録番号の印鑑も作った方がよいでしょう。
会計帳簿の付け方も売上については変わりません。
仕入、経費の支払いについて
インボイス制度で最も大変なのが支払った消費税についての処理です。
これまでは取引の種類で消費税を支払った、支払ってないと区分できましたが、インボイス制度が始まるとそうはいきません。
インボイス制度の要件を満たした適格請求書がある支払いについてだけ消費税を支払った処理ができます。
受け取った請求書、領収書、レシート等が適格請求書なのか確認する必要があります。
経過措置について
インボイス制度導入についての衝撃を和らげるため2段階の経過措置が用意されています。
インボイスの登録番号がない事業者への支払いについても一定割合、消費税を支払った処理ができるものです。
2023年10月1日〜2026年9月30日(3年間) 8割支払った処理OK
2026年10月1日〜2029年9月30日(3年間) 5割支払った処理OK
ただし帳簿に「80%控除対象」や「免税事業者からの仕入れ」などと記載する必要があります。
*マークなどを付けるとルールを決め、*マークは80%控除対象である旨を別途記載する方法も認められます。
経過措置に関する国税庁のQ&Aはこちら
適格請求書不要な取引
適格請求書がなくても帳簿の保存のみで消費税を支払った処理ができる項目があります。
以下のものです。
- 公共交通機関の運賃(3万円未満)
- 使用の際に回収される入場券等
- 古物商、質屋、宅建業者が適格請求書発行事業者でない者からの商品の購入
- 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源の購入
- 自動販売機、自動サービス機からの商品の購入(3万円未満)
- 郵便ポストに投函される郵便物の切手代
- 従業員等に支給する通勤手当、出張旅費等(通常必要と認めらるもの)
これらの取引は適格請求書の保存が実務上難しいため帳簿の記載だけでよいとされています。
その場合、帳簿には通常の記載事項に加え特例の対象となる旨を記載します。
会計帳簿の摘要欄に「公共交通機関」や「古物の購入」など記載することになります。
さらに5.の自動販売機、自動サービス機からの商品の購入では住所又は所在地を記載する必要があります。自動販売機からの飲食料品の購入、コインランドリー、コインロッカー、ATM手数料などが該当します。
会計帳簿の摘要欄に「〇〇市 自販機」や「〇〇銀行△△支店ATM」などと記載するとなっています。
6.の切手はどういうことを言っているのか分かりにくいですが、切手というものは購入時は非課税です。
郵便局のレシートを見ても非課税と書いてあります。しかし使った時に郵送という役務の提供を受けたことに対して消費税が課税されています。
実務上使った分だけ課税処理するのは難しいので、継続適用を要件に購入時に課税処理することが認められています。なのでインボイス後も購入した切手のレシートが非課税でも消費税を払った処理ができるということになります。
3.4.は古物台帳などの顧客情報を帳簿と一緒に保存する必要があります。
適格請求書が不要な取引についての国税庁のQ&Aはこちら
帳簿の付け方
ここまでの流れを踏まえて、仕入、経費の支払いについての帳簿の付け方を確認します。
消費税のかかる取引を前提に流れを書きます。
まず消費税率の確認
10%なのか軽減税率の8%なのかを記載(選択)
↓
適格請求書があるのかないのかを確認
あれば適格、なければ非適格
多くの会計ソフトの場合はチェックボックスがあり、適格の場合はチェックを付ける
↓
適格請求書はないが、適格請求書不要な取引に該当する場合
「公共交通機関」「〇〇銀行△△支店ATM」などと記載
↓
非適格の場合、経過措置の80%控除を受ける
そのために「80%控除対象」と記載
ぜえ、ぜえ、ぜえ、、、これだけのことを取引ごとに確認するのは大変ですね。
大変ですが、会計ソフトにしっかりと入力していけば区分ごとの消費税を集計できます。
決算時にまとめて処理することは難しいでしょうから、日々正確な処理をしていくことが大事ですね。
ちなみに登録番号は帳簿に記載する必要はありません。
少額特例
税込1万円未満の取引については帳簿の保存のみで消費税を支払った処理ができるという特例があります。
これを少額特例といいます。
受け取った請求書、領収書、レシート等が適格請求書の要件を満たしていなくてもOKということです。
ただし適用されるのは基準期間(2年前)の売上高が1億円以下の事業者に限られます。
適用される期間も2023年10月1日〜2029年9月30日(6年間)までの限定です。
売上高1億円前後を行ったり来たりしている事業者にとっては悩ましい特例ですね。
今期は少額特例使えるが、翌期は使えない、翌々期は使えるといった状況も考えられます。
売上高1億円前後の微妙なラインの方は少額特例はあまり意識せず、しっかりと適格請求書を保存して原則処理に統一してしまった方が混乱が少ないかもしれませんね。
少額特例に関する国税庁の案内はこちら
簡易課税を選択した場合
基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円以下になった場合は簡易課税というものを選択することができます。
簡易課税という名称の通り、簡易に計算します。
売上で預かった消費税の何割かを納付すれば完了です。
支払った消費税については関係ありません。
先ほどから見ている支払いについの面倒な確認、処理が不要になります。
簡易課税を選択することにより納税額が増えない場合は是非とも使いたい制度ですね。
簡易課税を選択するには「消費税簡易課税制度選択届出書」というものを税務署に提出します。
適用したい期間が始まる前に提出、一度提出すると2年間は継続適用など提出には注意が必要です。
簡易課税に関する国税庁の案内はこちら
免税事業者になる可能性がある場合(2年超縛りに注意)
基準期間(2年前)の売上高が1,000万円以下になると本来は免税事業者になります。
しかし適格請求書発行事業者の登録をした場合は取り消しをしないかぎり免税事業者にはなりません。
免税事業者になりたい場合は、免税事業者になりたい期間が始まる15日前までに取り消し届を提出すれば免税事業者になれます。
ただし、適格請求書発行事業者の登録をしてから2年間は納税義務が免除されないという規定があります。
正確に書くと「登録日から2年を経過する日の属する課税期間の末日までは、基準期間の課税売上高にかかわらず、納税義務が免除されない」となります。
ここでいう「登録日から2年を経過する日」とは登録日の前日を指します。
登録日が2024年1月1日なら2年を経過する日とは2025年12月31日です。
2025年12月31日の属する課税期間の末日までは納税義務が免除されないということは2024年と2025年は課税事業者になるということです。
1/1の登録ならいいのですが、1/2の登録だと前日が1/1になります。
1/1の属する課税期間の末日までは納税義務が免除されないということは実質3年間免除されないということです。
ただし、2023年10月1日を含む課税期間中に登録をした場合は2年縛りの適用がありません。
個人の場合で考えると
・2023年中に登録 → 期限内に取消し届を出せば2024年から免税事業者に
・2024年1月1日に登録 → 2024年、2025年は最低でも課税事業者
・2024年1月2日以降に登録 → 2024年登録日〜12月31日、2025年、2026年は最低でも課税事業者
今後売上が1千万円以下になったら免税事業者になりたいという方は2年(超)縛りに注意が必要です。
まとめ
消費税の原則課税事業者の対応について考えられることを書きました。
インボイス制度導入に伴い最も処理が複雑になる事業者です。
特に支払った消費税を適切に処理するためには細かい確認が必要です。
こんな細かいこと無理だよ、と思われるかもしれませんが、法律で決まってしまっていることなのでやるしかありません。
要件を満たしていなければ消費税を支払った処理が認められません。
日々確認しながら正確に処理していくことを心がけていきましょう。
注記
*この記事は2023年9月6日現在の法令・通達等に基づいて書いています。
*この記事は一般の方が読みやすいようできるだけ専門用語を使わず、規定の表現を変更、省略して書いております。実務では専門家にご相談ください。